第31回 ペルソナ(仮想対象ユーザー)を使ったデザイン(後編)
デザイン本部の山寺です。
前回に引き続き、「ペルソナ(仮想対象ユーザー)を使ったデザイン」についてお話したいと思います。
今回は、具体的なペルソナとはどのようなものかご紹介します。以下に示すのは、株のオンライントレードシステムを利用するユーザーのペルソナです。
- 氏名:高橋 英夫
- 年齢:56歳
- 性別:男
- 職業:電機メーカー勤労部門に勤務。
- 家族構成:妻と二人暮らし。こどもは二人いたが、すでに独立。
- 居住地:千葉県市川市
- 趣味嗜好:ゴルフ。酒。
- 性格:負けず嫌い。理論よりは感覚で判断する。
- このシステムにかかわる目標:定年後、本格的な資産運用をするにあたり、それまでに少し資金運用の練習をしておく。
- 高橋さんの生活や価値観に関する記述:
最近は仕事も以前ほどの激務ではなくなり、早い時間に会社を出られることも多くなってきた。定年退職までの期間がリアルに感じられる歳になってきたこともあり、退職金を使った資金運用を考えるようになってきた。会社の同僚も何人かは資金運用を始めており、株がいい、外貨預金がいい、運用ならFXだ、などいろいろな話が聞こえてくる。
どの運用方法がいいかわからなかったので、定年までにいくつかの運用方法を試して決めることにした。どれから始めようか迷ったが、まずは、代表的な「株」からやってみることにした。
時間に余裕ができたとはいえ、平日の昼間に証券会社に行く時間がそうとれるとは思えないので、インターネットで取り引きができる証券会社を選ぼうと考えた。そこで、本屋に行って「初めてのオンライントレード」という本と「会社四季報」を買ってきた。
本を見ながら、そこで紹介されているオンライントレードのホームページをいくつか見てみようと思いパソコンの前に座る。パソコン歴は7年ほどになるが、会社ではどちらかというとパソコンが苦手な方で、資料を作るときなどもわからないことは周りの人に聞きながらやっていた。ワープロや表計算ソフトなどの基本機能が使える程度で、インターネットも電車の乗り換え方法を調べたり、他社の製品情報を見たりするぐらいだ。インターネットの仕組みなどはさっぱりわからない。家のパソコンも子どもに来てもらってインターネットにつないでもらった。インターネットの通販も興味はあるが、子どもに「やたらとクレジットカードの番号を入れたりすると危ない」と言われたので、使うのを控えている。
「初めてのオンライントレード」には証券会社を比較するための項目がたくさん載っていたが、自分がどんな運用をしたいのかもわからないので、どの証券会社を選んでいいかわからなくなってしまった。結局、いざとなったら窓口に行けるように、家の近くに店舗のある証券会社を選んだ。
「初めてのオンライントレード」を見ていくと、投資先の選び方についても書いてあった。どこの株を買うか特に決めていなかったので、どうやって選ぶのかを見てみる。PERやPBRなどの言葉が書いてあるがなかなか難しい。いくつかの投資方法が書いてある中で、「自分が興味のある分野に投資する」「株主優待で選ぶ」というのが、自分でもすぐにわかりそうだと思い、このやり方で投資先を探すことにした。そこで、自分が好きなビールを造っている会社と持っているゴルフクラブのメーカーの情報を見てみることにした。(後略)
このように具体的に記述しておくと、ユーザーインターフェースをデザインするときに、高橋さんはどんな情報を見て株の購入を検討したいと思うか、とか、この操作方法を高橋さんは迷うことなく理解できるかといったことを具体的なイメージを持って検討することができます。
では、ペルソナを使うときのポイントを書きたいと思います。
一つめは、具体的なイメージを明確にすることです。
目標としては、ペルソナが、まるで開発者全員の共通の知り合いで、実在する人のような感覚になるくらいが理想的です。例えば、先述のペルソナの高橋さんの場合、細かな設定がされているので、人物像をイメージしやすく、開発関係者がそのイメージを共有できると思います。
ただし、対象ユーザーを網羅しようとするあまり、一人のペルソナに複数のユーザーの役割を負わせるのは考えものです。例えば、「この製品のユーザーは、首都圏に住んでいる人が約5割で、北海道が8%、東北が12%(中略)なんだけど、居住地を千葉県に限定していいんですか」というようなことをいう人がいます。でも、首都圏に50%、東北に12%とか住んでいる人なんていません。あるユーザーは、確率的に分布していたりしないのです。
このように、ペルソナ一人で全部のユーザーが求めることや特性を網羅できないときは、ペルソナを二人にすればよいのです。そして、それぞれの人に、どのようにシステムを使用してほしいかを考えるのです。
二つめは、ペルソナの設定を後から勝手に変えないようにすることです。
例えば、先述のペルソナの高橋さんの場合、”インターネットの仕組みなどはさっぱりわからない”という設定になっていますが、「この操作を理解することはできないだろうけど、そこにガイダンスを表示する機能を盛り込むと開発が間に合わなくなるので、もう少しWebの操作に詳しいことにしよう」といったことをしてしまうと、ペルソナとしての意味がなくなってしまいます。
三つめは、開発関係者が、ペルソナの役に立つシステムを作ろうという気持ちで、仕様の検討やユーザーインターフェースデザインをすることです。
先述のペルソナを例にすると、ある機能を実装しようと考えたときに、「この機能は高橋さんにとってどんなときにうれしいのか?」あるいは、「どんな操作方法にすれば気持ちよく株の取引ができるのか?」という観点を忘れないということです。
○○機能を開発するという場合、ともすると、ペルソナの役に立つシステムを考えようという観点から離れてしまい、下記のような会話が交わされることがあります。
A:「○○機能って、具体的にどのように使われるのですかね」
B:「それはいろいろな使われ方があるから一概には言えないよ。新機能なんだから出してみないとわからないでしょう」
ユーザーインターフェースのデザインをする立場の人間としては、ペルソナを使っているのに、仕様検討の打ち合わせでこのような会話が出てきてしまうことは避けたいです。
以上、ペルソナについて簡単にご説明させていただきました。
次回は、Webサイトをデザインする際のポイントについてご紹介します。
